大垣俊一さんの命日にあたって

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 5月となり、今年も瀬戸臨海実験所の卒業生である大垣俊一さんの命日が巡ってきました。そのことで思うことを書きたいと思います。
 大垣さんは、長く瀬戸臨海実験所近隣の岩礁の潮間帯に生息するマクロベントスの挙動を、研究されてきました。 それで取られたデータは極めて膨大で、おそらく個人の研究成果として、ある場所に根差した研究としては、まれにみるものでありましょう。 その成果の一つは下記のようなタイトルでPublications of Seto Marine Biological Laboratory, Special Publication Seriesの中で刊行されています。
 A Record of the Intertidal Malacofauna of Cape Bansho, Wakayama, Japan, from 1985 to 2010
 フリーダウンロードのページは下記。
 
このほかにも膨大なデータが未発表のまま残されています。 またその中には、現在の瀬戸臨海実験所のスタッフによって継続調査がなされているものもあります。
大学院生が個体群動態や群集の動態を研究する場合、大学院の年限に制限を受けるため、2年から最大でも4年くらいのスパンの研究になってしまいます。 しかし個体群や群集の動態というのは、もっとはるかに長いスケールで変化することが多く、真の動態論に近づくためには、長期的な調査が必要になります。 こうしたことを目指して、瀬戸臨海実験所では、畠島の岩礁潮間帯で1968年より「海岸生物群集一世紀間調査」というのが、行われています。
その説明は瀬戸臨海実験所のホームページの「畠島」のページに出ています。
以下一部引用————————————————–
1968年より始められた畠島の「海岸生物群集一世紀間調査」は、所員および他教育機関の調査員によって、現在も継続されています。5年ごとの春季に行われる全島調査では、畠島の43区域において、指定された大型底生動物86種の分布密度を記録し、動物相の時間的な変化を観察しています。また、南岸調査では、観察された全ての動植物も記録しています。近年4回の調査記録は、実験所OBの大垣俊一博士によってまとめられ、関西海洋生物談話会連絡誌 “Argonauta” より閲覧できます。2013年に行われた最近の調査の様子は公式ブログよりご覧いただけます。
引用ここまで————————————————–
 近年海洋生物の長期的変動の要因として注目されているのが、レジームシフトです。水産業では古くから魚種交代とよばれる現象が良く知られており、マイワシ,マサバ,カタクチイワシ,マアジ,サンマなどの大衆魚とよばれる漁獲高が著しく高い魚種において、ある魚が取れなくなると別の魚が取れるようになるというサイクルが見られることが、あります。 千葉県の九十九里浜は昔からイワシ漁業がさかんですか、江戸時代からその地域のイワシの漁業をつかさどる組合があり、その売上台帳の記録から、イワシは10~20年の豊漁期間が続くと、そのあと20~30年は捕れない時代が続くという長期変動を繰り返していたことがわかっています。
 その要因としては、人間の取りすぎ、他の魚種との競争関係など、いろいろな説がありましたが、近年、重要な要因として考えられているのがレジームシフトです。これは、気候のジャンプともよばれていますが、地球規模で温暖レジームと寒冷レジームが長期的に繰り返されており、それにリンクしている形で魚種交代が起きている、というものです。
 大垣さんの理念であった「長期調査によって群集の動態を明らかにする」ということは、こうしたことの解明にも寄与するであろう先見の明と言うべきものでしょう。
 以下の写真は2013年の調査からのものです。
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