第38回(1)瀬戸海洋生物学セミナー

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ヒドロ虫類における生殖体制の多様化

並河 洋 研究主幹(国立科学博物館 動物研究部)
2014年4月15日(火)17:00~17:30

ヒドロ虫類において生殖巣を内包する部位を生殖体と呼び、それは、一般にポリプ上に形成される。この生殖体の形態は多様であり、例えば、淡水産ヒドラのようにポリプ表皮の肥厚を伴う袋状のものやカイウミヒドラのように水管を持つがポリプから遊離しない子嚢、オワンクラゲのように発達したクラゲとなるものなどがいる。このような生殖体の多様化は、種の多様化を生み出すこととなり、この類の系統関係を考える上で興味深いものである。

それでは、この生殖体の多様化はどのような要因によるものなのだろうか。今回は、これまでの組織学的研究などを踏まえ、この要因の一つは「ヒドロ虫類において生殖巣形成部位が胃腔側から表皮側に移行したこと」であると考える。この考えは、先ず、ヒドロ虫類が、近年の分子系統的研究に基づき、刺胞動物のなかで最も派生的であるということに起因する。また、ヒドロ虫類以外の刺胞動物では生殖巣形成部位は胃腔側であることから、ヒドロ虫類が派生的であるとすると、生殖巣形成部位の胃腔側⇒表皮の移行はヒドロ虫類において生じたものとみなすことができる。この移行の要因としては、この動物の体制の単純化や小型化というものが考えられる。そして、生殖巣形成部位が表皮側(つまり体外)に移行することで、生殖体形成における生活史上の自由度が高まり、結果として、多様な形が生まれ、遊離し、自ら捕食して成長するクラゲなども発達したのではないかと推論する。

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