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日本産平板動物の研究
中野 裕昭 助教(筑波大学下田臨海実験センター)
2012年12月19日(水)11:00~12:00
平板動物は直径約0.5-2 mmのアメーバ状の海産動物で、器官と大部分の組織を欠き、神経細胞や筋肉細胞もありません。3層になった5種類の細胞からその体は構成されています。その単純な体制から現生の中で最も祖先的な形質を残す動物の一つとされ、系統学的研究もさかんで2008年にゲノムも報告されています。しかし、発生に関しては卵から128細胞期までが報告されているだけで、それ以降の発生段階及び精子は未だ記述されていません。
そのあまりにも単純な体制なために種の同定が困難で、平板動物門からはまだTrichoplax adhaerens 1種しか科学的な記載はありません。しかし、最近の分子系統解析や電子顕微鏡を用いた微細構造の観察により、複数のグループが存在することが明らかになっています。ただし、それらのグループが亜種、別種、別属、別科の何に相当するのかはまだ判明していません。
日本国内からはこれまでに瀬戸臨海実験所を含め4箇所から報告があるものの、詳細な分布は調査されていません。また、国内で採集される平板動物がT. adhaerensなのか、他のグループなのかもほぼ報告がありません。つまり、日本産平板動物を用いた研究はほとんど行われていないのが現状です。私は現在、日本産平板動物の実験系の確立に向けて、日本中の平板動物の基礎的な生物学的知見の集積を試みています。本発表では平板動物という奇妙な生物を皆さんに紹介するとともに、日本産平板動物の最新の研究成果について話をしたいと思います。