第29回瀬戸海洋生物学セミナー

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イルカやクジラのにおい認識

岸田 拓士 研究員(京都大学霊長類研究所)
2012年7月23日(月)10:00~11:00

パラフィン包埋中のホッキョククジラの嗅球

海に棲む魚たちと、陸に棲む私たち哺乳類とは、嗅覚のしくみがずいぶんと違っています。魚は水中に溶解している化学物質をにおいとして認識しているのですが、哺乳類は空気中に揮発している物質をにおいとして認識しており、水中の物質を嗅覚で認識することはできません。では、比較的最近になって陸から海へと生活の場を移したクジラの嗅覚はどうなっているのでしょうか?本研究では、比較解剖学・分子進化学・神経生理学的な実験・解析を行った結果、次のことが示唆されました。

  1. ハクジラは嗅覚を完全に失った一方で、ヒゲクジラは主嗅覚系を保持しており
  2. ヒゲクジラは陸上哺乳類と同じく空気中の物質をにおいとして認識している。
  3. ハクジラとヒゲクジラの嗅覚能力の差は、両者の摂餌方法の違いに起因している。
  4. ヒゲクジラの嗅覚神経系は、陸上哺乳類と比べると特殊化している。

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Thewissen JGM, George J, Rosa C, Kishida T (2010) Olfaction and brain size in the bowhead whale (Balaena mysticetus). Marine Mammal Science 27, 282–294.

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