ウミシダの再生
柴田 朋子 研究員(自然科学研究機構基礎生物学研究所)
2012年6月15日(金)10:00~11:00
棘皮動物は一般に再生能力が高く、ウミユリ綱に属するウミシダは、腕に散在する自切可能な関節を多数有し、外部からの刺激を受けると適当な場所で自切して腕を捨て、自切面から新しい腕が再生することが古くから知られていた。さらに、個体発生過程において、古い腕を1本自切し、そこから新しい腕を2本再生させることを繰り返して腕数を増やすという特殊な再生様式を持つことが明らかになった(分岐再生、Shibata & Oji, 2003)。
私は、動物の再生様式が進化過程でどのように多様化したかを明らかにするため、他の動物の再生と比較することを目指し、ウミシダの東大臨海実験所(三崎)周辺に生息するニッポンウミシダOxycomanthus japonicusを用いて、腕の再生過程について特に再生初期に起こる創傷治癒と再生芽形成に焦点を当て、詳細な記載とステージングを行った。その結果、創傷治癒の際に口側表皮と反口側表皮が接着した部分から再生芽が生じることを明らかにした。すなわち、腕の自切後、腕の反口側表皮が自切面周辺から伸長し、やがて口側表皮と接着する。接着部分から再生芽が生じ、その後伸長して各組織が形成され、自切後2週間ほどで小さな腕が出来上がる。
プラナリアなどの再生においては、背側表皮と腹側表皮の接着点で再生芽が生じ、接着部において異なる位置情報を持つ組織が隣り合うことが再生芽形成のトリガーとなっていることが知られている。ウミシダで口側-反口側表皮の接着面から再生芽が形成される現象は、プラナリアなどで背腹表皮の接着が再生のトリガーとなり、再生芽がその接着面(背腹境界)から生じることに対応すると考えられ、異なる位置情報を持つ組織が隣り合うことにより再生芽が生じるのは左右対称動物の再生において普遍的な現象であることが示唆された。