第41回 瀬戸海洋生物学セミナー

「ギボシムシ類の研究と臨海実験所」
浦田 慎 特任助教(広島大学 生物圏科学研究科 竹原ステーション)

2014年10月8日(水)17:20〜18:20

日本でのギボシムシ類の研究は、明治時代に動物学の教育研究が確立される中で始まり、今日に至っている。初期の研究は、東京帝国大学の三崎臨海実験所をベースとした研究が主で、また1908年の瀬戸内海におけるハネナシギボシムシの遊泳行動の報告は、世界に衝撃を与えるものであった。今回は、当時活躍していた動物学者の一人であり、ハネナシギボシムシの遊泳行動の発見者であり、また瀬戸臨海実験所の建設を実現させた池田岩治をキーパーソンとして取り上げ、臨海実習と臨海実験所の成立とその意義について再確認したい。また百年前の報告がいかに現代の研究につながっているかを、演者の一連の研究を概観するかたちで紹介する。すなわち、池田の報告にある遊泳時期と、彼らの生殖時期が完全に異なることから、生殖遊泳ではないことが示された点、野外と飼育下で巣穴が確認され、池田の推測と異なり穿孔生活であることが示された一方、夜間に体を伸長させる行動が池田の推論を一部裏付けたこと、またその生息環境から、貧酸素からの逃避が遊泳の要因として考えられ、その条件となりうる時期が池田の報告にある遊泳時期と一致することなど、である。ハネナシギボシムシ科は、世界的に研究しがたい貴重なグループであるが、近年演者らによりその全発生過程が明らかとなり、ある種のナマコ類と酷似した驚くべき発生過程を経ることが示された。また分子系統学的位置も解明され、新科である深海性の「リュウグウギボシムシ科(新称)」の確立に貢献した。こういった研究の一端から、日本の豊かなギボシムシ相に興味を持っていただければ幸いである。

[図.ハネナシギボシムシの巣穴(A:野外,B:飼育下)と採集状況(C)]