第39回 瀬戸海洋生物学セミナー(海の生き物講演会と合同開催)

「ゴカイから見た有明海・諫早湾問題」
佐藤 正典 教授(鹿児島大学 理学部)

2014年5月31日(土)10:45〜11:30

波静かな内湾奥部に発達する干潟は、特異な生物相を育み、きわめて高い生物生産力をもっています。日本は狭い島国でありながら幸運にも内湾の干潟生態系の豊かさに恵まれました。干潟は、古来、日本人にとって、多彩な魚介類の食材を提供してくれる大切な食料庫でした。しかし、近年の沿岸開発によって、東京湾、伊勢湾、瀬戸内海など日本中の内湾の干潟の多くが消滅しました。食料の大半を海外からの輸入に頼るようになった社会は、干潟をつぶしてもすぐには困らないので、その恩恵を忘れます。

有明海は、日本最大の干満差などの好条件に恵まれ、日本の内湾の中では最大の干潟面積を有しています。しかし、ここでは、1997年に諫早湾の泥干潟(有明海の干潟面積の14%)が大規模干拓事業のために閉め切られました。その結果、この干潟の生物が全滅しただけでなく、その外側(有明海奥部)での環境悪化も進行しています。

有明海奥部は、日本でここだけにしか生息していない特産生物が多数存在するという点で特別な場所です。このうちアリアケカワゴカイ(ゴカイ科多毛類)は、干潟での現存量が特に大きく、魚類や渡り鳥などの重要な食物になっていると思われます。100年以上前には瀬戸内海や伊勢湾にも分布していましたが、今は有明海にしか生き残っていません。これらの干潟の生物とそれに支えられた沿岸漁業の営みを絶滅させないために、諫早湾の環境復元が強く望まれます。それは、あと一歩で実現可能なのです。