第36回 瀬戸海洋生物学セミナー

「日本近海の海洋生物地理情報の統合・共有―現状と今後の展望」
田中 克彦 技術研究主任(海洋研究開発機構)

2013年10月24日(木)11:00〜12:00

ある生物が「いつ」「どこで」採集・観察されたか、という生物の出現記録は、野外調査において必然的に生じる基本情報であり、各生物の分布、あるいは各地域の生物多様性を把握・予測するために必要不可欠なデータである。近年、そうした生物出現記録が大規模なデータベースに集積され、オンラインで公開されるようになった。なかでも、2000年から2010年にかけて活動した国際的な海洋生物研究プロジェクトネットワークであるCensus of Marine Life(CoML)は、得られたデータを格納するデータベースとしてOcean Biogeographic Information System(OBIS)を構築し、インターネット上で広く公開した。OBISはCoML終了後にUNESCO傘下のIODE(国際海洋データ情報交換システム)に移管され、現在、14万種を超える海洋生物についての3.7千万件の生物出現記録を公開している。

OBISが保持するデータは海洋生物地理情報に関するものとしては世界最大規模であるが、必ずしも十分とは言えない。たとえば、OBISのデータは海洋表層に集中しており、中層〜深海にかけてのデータは乏しい。また、日本周辺からは約7.3千種に関する記録があるが、これは日本周辺の既知の海洋生物の3割にも満たず、その多様な生物相を網羅したものとは言いがたい。こうしたデータのギャップは解析時に空間的、あるいは分類学的な解像度に制約を加えるほか、対象地域の生物多様性の過小評価につながりうる。そのため、さらなるデータの収集と補完が必要とされている。

OBISにおける日本近海のデータの乏しさは日本のデータをとりまとめてOBISに提供する地域拠点(ノード)の不在によるものと考えられる。そこで、海洋研究開発機構では、日本産海洋生物の情報をとりまとめるデータベースとしてBiological Information System for Marine Life(BISMaL)を構築して公開するとともに、日本海洋データセンターなど関係機関との調整を行い、その結果、2012年にOBIS日本ノード運営委員会(J-RON)が組織された。J-RONの活動は始まったばかりであるが、日本海洋データセンターが過去に集積した 29万件のプランクトン出現記録がJ-RONに提供され、機構が保有する深海生物の標本・映像に基づくデータとともにBISMaL上で公開されているほか、一部はOBISに転送されて利用者に提供されている。今後はJ-RON運営委員会への参加各機関が保有するデータの整理・整形とBISMaLへの取り込みが進められるとともに、より広い範囲からのデータ収集が推進される予定である。このセミナーでは、海洋生物地理情報に関連した国際的なデータベースやデータ共有の動向について、日本国内における取り組みを中心に紹介し、その課題と将来の可能性について考えてみたい。