第23回 瀬戸海洋生物学セミナー

「海の生き物の石灰化と二酸化炭素の取り込み−海洋酸攻撃−」
市川 和彦 名誉教授(北海道大学触媒化学研究センター)

2010年11月21日(日)13:30〜14:30

親しまれている奇岩や鍾乳洞は俗に言われている石灰(炭酸カルシウム)風化によって創りあげられた。これ等の自然の産物は難溶塩CaCO3の溶解・析出

CO32- + Ca2+ = CaCO3

によって出来上がったと説明できるのか。「人間活動による大気の二酸化炭素増加による海洋酸性化は石灰化を営む海の生き物への脅威となる。」を主題にした多くの研究成果が30年程前から公表されている。海洋酸性の攻撃を溶解度積[CO32-][Ca2+]の概念で解析・予測・対策が可能なのだろうか。

酸性化の現象なのだからプロトンの生成・消費を伴う物質変換に着目する必要がないのか。問題になっている海洋酸攻撃は海水pH 8.3が8.1そして7.9-7.8に降下する事から起こる。しかし当pH領域では骨格溶解後もサンゴが生存可能である。サンゴの生理・代謝作用は当pH 7.9以下で正常に働くと考えられる。実際おこる主なる石灰生成・溶解はpH 8.5以下で

CaCO3 + H+ = HCO3- + Ca2+

によって記述される。新しい化学種の生成反応にはプロトン生成・消費を必要とする。過飽和石灰水pHの上昇・下降はおこり平衡状態でpH ~8を示した (Ichikawa, 2007)。過飽和石灰の生成量・溶解量はpHや大気の二酸化炭素分圧に依存する。プロトン授受の反応(可逆的酸解離反応)及び物質エネルギー論(エネルギー制御による化学種生成プロセス)を基盤にして大気圧下で過飽和石灰水はpH ~8なのかを究明してきた。

古代・産業革命以前の海洋pHのサイクル型、振動型安定は如何なる原因・制御によるのか。石灰化生き物棲息海洋の緩衝作用発現を示す酸−塩基解離化学反応の全てを取り上げる必要がある。有孔虫や円石藻の殻の重量増減に着目する事になるから細胞・組織内共生体や植物プランクトンの石灰化機構を考慮しなければならない。ダイナミックな定常状態や平衡状態についてプロトンが関わる可逆的石灰化と不可逆的光合成反応とのカップリングのプロトン制御機構によって検討する必要がある。培養実験にあたっては当カップリング効果を検討・究明可能な実験条件、データ蓄積、そして解析・議論の必要があろう。

人間活動による1990年以降の急激な二酸化炭素増加のみならず酸性化合物例えばSOx、NOx含有大気が海洋pHに影響を与え、海の石灰化生き物にとっての海洋酸性化脅威となる事を指摘したい。近い将来の海洋酸性化を分析・予測して当問題の対策を講じなければならない。

  • 関連文献
  • Ichikawa, K. (2007) Buffering dissociation/formation reaction of biogenic calcium carbonate. Chemistry - A European Journal 13, 10176-10181.